2011年2月6日日曜日

脳にみる男と女。日経から。

◎ 助け合ってこそ能力輝く

 人の心を司る脳。その謎解きは巨大なジグソーパズルを解いていくのに似ている。脳科学者の北澤茂さんはひょんなことから男女の脳の使い方の違いを見つけ、それを手がかりに脳の中の情報のやりとりと心、社会性、創造性との関係について考えを巡らせている。

 「人の話を聞くときに男女で脳の使い方が違っているといったら、にわかには信じがたいですよね。私も仲間もそんな研究結果が出て、驚いたぐらいですから。」

「脳の言語機能は左脳と言うのが100年以上続いた通説でした。朗読の声を聴かせてみると、確かに男性はほとんどが左脳だけで話しを聞いている。ところが大半の女性は話しを聞いているときに右脳の対称的な部位も使っている。時間的に短い音や単語レベルの言語処理はもちろん左脳ですが、時間的に長い文章全体の理解となると左右両方の脳を使っているのです。」
 
 論文を書いたのは10年ほど前。当初、反論もあったが、男女の違いを示す結果は近年、次々と報告されている。

◎気配りは女性が得意

 「どうして女性の多くは右脳でも話しを聞いているのか。体格の差と同様に女性の脳は男性に比べコンパクトで、左右の脳で情報を効率よくやりとりできる。だから、右脳も使っているようなのです。私達は脳の中で情報をまとめあげないと行動できない。左右の脳の情報統合では女性のほうが有利な構造なのでしょう。」

 「左脳には文法の機能、右脳には抑揚の判断や連想に絡む機能があるといわれています。女性は男性より抑揚とか感情に絡むニュアンスを感じ取る力が強いことが分かっています。つまり女性は右脳を使って相手がどんな気持ちでしゃべっているのかも感じ取り、左脳の情報と突き合わせて判断している 。」

 「ざっくり言ってしまえば、相手の気持ちを読むのが得意なのが女性。一方、男性は左脳だけを使い、抑揚とか連想にとらわれずに、言葉通りに受け取って判断する。その場の空気に左右されず、冷静で決断力があるともいえるし、鈍感と言ってよいかもしれない。個人差があるからあくまで平均的な話しですが。」

◎違いを知れば接し方も変わってくる

 脳の使い方が違う背景には進化もからんでいるようだ。  

 「今はイクメンが流行り始めていますが、人類の長い歴史では、育児、子供の面倒は女性が担ってきた。言語能力が未発達で泣くとか片言しかしゃべらない幼い子供の意図を読み取って、コミュニケーションをとる。赤ちゃんに抑揚豊かに語りかける。右脳を使い、その能力に長けた女性のいる集団の方が子供の言語能力が発達し、集団として力を持つ。そんな流れがあっても不思議はありません。」

 「男性と違い、女性は腕力にものをいわせるわけにはいかない。対立を極力回避して賢く生きることが出来るように、話し方から相手の心、気持ちをしっかり読み取る能力を高める方向に行ったとも考えられます。」

 左右の脳で言語処理できると聞けば、女性のおしゃべり好きの理由がわかったような気にもなる。

 「そういって面白がる人もいるようです。だが、男女のお喋り好きを比較する実験は容易ではない。現段階では右脳との関係は言えないし、確かめるのは大変です。」

 「違いから言えるのは、お互いの理解が大事だと言うことです。男性は時に女性が論理的に話しをしないと言ったりします。でも、実際は全体の状況が見えているのは女性なのに、男性は左脳で言葉通りにしか話を聞く力がなくていらいらしているのかもしれない。女性も男性は相手の気持ちを読むのが不得意なのでデリカシーに欠けると分かれば、鷹揚になれるでしょう。」

 「能力発揮という点から言えば、交渉ごとなどで対話が重要な局面では女性の能力が生きるでしょうし、決裂覚悟なら『鈍感』な男性が向いているかも知れない。社会を考えれば、これまで以上にお互いを知って補い合うことが何より重要でしょう。」

◎自分達の脳を知るのは社会を知ること

 今、力を入れているのは自閉症の研究。男女差とは脈絡がないように見えるが、脳の使い方が広いか狭いかとう視点は共通している。  

 「自閉症は言語の発達や社会性の障害、繰り返しの行動という症状を示します。これは脳の各部位のつながりが悪いことで起きるようなのです。脳のごく狭い部位しか使わず、ほかの部位の情報も統合できない。だから脳を限定的にしか使わない男性を極端にしたのが自閉症と言う説もあるほどです。」

 「原因の遺伝子はいくつも見つかっています。ただ、1つの遺伝子だけではならないし、ひとつひとつは本当は長所なのかもしれない。例えば自閉症の診断では『ひとつのことに著しく熱中する』という項目がある。学者にも世の中がどうでもいいと思うようなことに熱中し、社会性に欠ける人もいますよね。でも、素晴らしい業績を上げる。つまり一途は長所以外の何者でもない。長所と思える遺伝子がそろったら裏目にでる。自閉症はそんな病気のようなのです。」

 「自閉症には天才といえるような絵画を描く人もいます。特別な脳の使い方が創造性につながっているのでしょう。脳の中で情報をどうやりとりしていると、社会性や優れた才能につながるのか。興味は尽きません。」

 「すべてにおいて完璧な脳はありません。男女だけでなくだれでも脳に違いがあり、どこかに得意、不得意がある。それが様々な才能、ダイナミックな社会につながっている。社会の根底には脳があります。よりよい社会をつくるには自分の脳を知ることが大事だと思います。」

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